中国人スタッフ:
朴 慶浩(ぼく けいこう)
鵜飼は、私の母国・中国でもおなじみの伝統漁法です。日本では長良川をはじめ各地で行われているそうですが、ここ嵐山の鵜飼はなんと千年以上の歴史を誇るとか。今日はそんな古典漁法を、古式ゆかしい屋形船に乗って楽しみたいと思います。生まれて初めての鵜飼見物、ワクワクするなぁ。
鵜飼まで時間があるので、食事処で腹ごしらえをすることに。大通りを北へ行くと、右手に嵯峨豆腐の専門店を発見。広い間口に幅広の暖簾、日本瓦と一枚板の看板がいかにも京都らしく、和風情緒たっぷりです。1階は製造・販売のスペースで、食事処は2階。大きな窓越しに天龍寺の正門が望めます。おなかが空いている私はさっそくメニューを開き、「手桶くみあげ湯葉御膳」を注文しました。竹の桶に、薄い生湯葉が折り重なるように入っています。湯葉は中国にもありますが、日本の湯葉は舌触りがまろやかで、あっさりとした味ですね。生麩の田楽も歯応えがモチモチで、とてもおいしかったです。
別メニューの湯葉あんかけも人気
手桶くみあげ湯葉御膳 1580円
嵯峨とうふ 稲
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺造路町19
電話:075-882-5809
営業時間:11:00-18:30(LO)
※繁忙期延長あり
定休日:年中無休
湯葉は中国で「豆皮(ドウピ)」と呼ばれ、主に炒め物や蒸し物に使われます。豆皮に豚肉を巻いて炒めた料理は私も好きですが、脂っこいので一人では食べきれません。そもそも中国では一人で外食する習慣がなく、大皿料理をみんなで取り分けて食べるのが一般的。
日本のように、一人前ずつお盆にセットされて出てくることは、ほとんどありません。
大堰川(おおいがわ)沿いにある乗船場に到着しました。田舎育ちの私にとって、川は懐かしい存在。子どもの頃は毎日のように川で遊び、釣った魚をその場で焼いて食べたものです。さて、いよいよ鵜飼見物の屋形船(乗合船)へ。靴を脱いで奥へ進み、船尾側の端っこに座ります。19時になり、さぁ出発です。船頭さんが鵜飼の解説をしながら、1本の竿だけで器用に舵を取り、上流の方向へ船体を進めます。頬をなでる川風が心地よく、日中のうだるような暑さが嘘のよう。亀山公園の前あたりで止まると、他の屋形船も近づいてきて、ひもで船をつなぎはじめました。どうやら、ここで鵜舟が来るのを待つようです。
屋形船(乗合船)は1日2回出船(※7/1~8/31は19時と20時、9/1~9/17は18時半と19時半)
屋形船は乗合船のほかに、貸切船や宮廷鵜飼船なども
提灯には鵜のシルエットが描かれている
私の故郷は中国北部の黒龍江省(こくりゅうこうしょう)で、北海道とほぼ同じ緯度です。
夏は気温が33℃まで上がることもありますが、空気が乾燥しているので日本のようにムンと蒸すような暑さにはなりません。逆に冬は寒さが厳しく、氷点下20℃の日も!
鵜が川に潜り、鮎などの川魚をキャッチ
あっ、上流から鵜舟がやってきました。篝火(かがりび)がぼうぼうと燃える横で、腰蓑をつけ烏帽子をかぶった鵜匠さんが、6羽の鵜を6本の手綱で操っています。舟を操る「とも乗り」と助手の「なか乗り」の方も同乗し、3人1組で漁を行っているようです。なか乗りさんが船べりにドン、ドンと竿を打ち付けて低い太鼓のような音を響かせています。屋形船の船頭さんの説明によると、この音で眠っている魚を起こすのだとか。鵜匠さんの「ホウホウ」という掛け声に励まされ、鵜が魚をパクッ!すかさず手繰り寄せ、吐き出させます。「お見事!」。鵜匠さんと鵜の息の合った動きに見物客一同、大絶賛です。気がつけば、すっかり日が落ちています。真っ暗な川にゆらめく篝火が、なんとも幻想的で風雅な夜でした。
中国の鵜飼は「(ユーインブーユー)」といい、雲南省(うんなんしょう)など南の地域が有名です。嵐山では鵜飼は夏の風物詩ですが、中国の鵜飼は桂林(けいりん)などで冬の間も見ることができます。中国では端午節(たんごせつ)の「ちまき」や中秋節(ちゅうしゅうせつ)の「月餅(げっぺい)」といった食べ物で、季節を感じることが多いですね。
夜の嵐山は思っていたより静かで、店もほとんど閉まっていましたが、それでも鵜飼には大勢の人が訪れていました。篝火に照らされ、屋形船から眺める鵜飼と嵐山の夜景は、これまで日本で見た景色の中でいちばん情緒あふれるものでした。観光客に人気があるのもうなずけます。来年の夏もぜひ嵐山に来て、鵜飼を楽しみたいと思います。
朴 慶浩(ぼく けいこう)
寺院・神社、店舗、施設等に関しては、掲載の各スポットへ直接お問い合わせください。