
多くの観光客でにぎわう祇園にも、喧騒を忘れて落ち着ける穴場があります。今回は、花見小路通に境内を広げる寺院と細い路地にオープンしたカフェに出かけます。
河原町駅から祇園方面に向かい、花街の中心に立つ建仁寺へ。境内に並ぶ塔頭の中に、座禅体験ができる両足院があります。早朝の澄んだ空気の中、方丈の廊下に用意された座布団の前へ。初めてのチャレンジだけに、お坊さんと対面して座ると一気に緊張が高まりました。最初に教わったのは、座禅とは「自分の体の中に意識を向けるもの」だということ。座禅=頭をからっぽにすることだと思っていたのでとまどうも、まずは実践。感覚を研ぎ澄ますため、目を閉じて手を空中に上げること数秒。ピリッと指先に何かを感じたら、いよいよ本格的に座禅スタート。足と手を組み、骨盤と膝で支えながらどっしりと座り、意識を体の内側へ集中します。息を吸う時に鳥の声や体に感じる風を受け止め、数字を数えながら息とともにすべてを吐き出す。そんなイメージで呼吸を繰り返すうちに、体の中を何かが流れていくのを感じました。
仏教は中国から日本に伝わったもので、中国各地に寺院が点在しています。しかし、実は僕らのような若い世代は寺院に出かける機会はあまり多くありません。だから、日本で旅行の目的地として寺院に出かける観光客の姿が多いことに驚きました。
約25分の長いようで短い座禅のあとは、お坊さんから法話をうかがいます。座禅に関する話を聞くうちに、いま自分が持っているものに満足し、幸せであることを受け入れることが禅の教えなんだと気づけました。ひと通り終わると、最後は苔や木々の緑が美しい庭園をお堂の中から観賞。両足院は通常非公開で貴重な機会だと、座禅を組んでいた方丈前の庭園などをじっくり眺めることに。書院のほうに移動すると、池を中心に配置した庭園が広がります。こちらは、夏場になると葉の半分が白くなる半夏生(はんげしょう)という植物が植わることから、「半夏生の庭」とも呼ばれています。白い花が咲くかのように池を彩る景色を思い浮かべ、今度は夏場に来ようと思いながらお寺を後にしました。
中国のお坊さんといえば、お寺の外に出かけることなくストイックに修行を積んでいるというイメージがあります。でも日本のお坊さんには結婚している人もいれば、一般の人に座禅の手ほどきをしてくれるなど、身近な存在なのだと感じました。
にぎやかな花見小路通から離れ、閑静な路地を進んだ先に突如スタイリッシュな建物が現れます。こちらは、くずきりで人気を集める和菓子の老舗・鍵善良房の姉妹店となるカフェ。本店と同じように吉野葛や国産の黒蜜など上質な素材を使い、和菓子の新しい食べ方を提案しています。店内に入り、坪庭から陽光が差し込むカウンターでいただいたのは、定番メニューのくずもちとコーヒーのセット。本葛粉と砂糖だけで作られるくずもちはやわらかく、口に入れた瞬間に溶けるよう。ほんのりと甘味があるので、まずはくずもちだけで、そのあと黒蜜やきな粉をかけて、と味の変化を楽しめます。セットのコーヒーは和菓子に合うようにブレンドされ、苦味の余韻はあるものの和菓子の邪魔をしない口当たり。コーヒーと和菓子の相性の良さに驚きながらも、落ち着いた雰囲気にひと息つくことができました。
中国の飲み物といえばお茶が有名で、いろいろな茶葉から選んで味わえる茶芸館がたくさんあります。一方、個性的なカフェも増えてきており、中には猫と遊びながらコーヒーを楽しめるなどユニークなお店もあります。
日差しや風など、あるのが当たり前だと思っていたもののありがたみに気づくことができました。この気持ちを忘れず、日々を幸せに過ごしたいと思います。
楊 超